「次の案件どうする?」って言葉が刺さった夜、冷めたカフェラテと将来不安だけが部屋に残った

当ページのリンクには広告が含まれています。
    • URLをコピーしました!

    目次

    夜のコンビニ前で、フリーランスという言葉だけが少し光って見えた

    仕事をする女性

    夜9時すぎ、仕事帰りに寄ったコンビニの自動ドアが開いた瞬間、揚げ物の匂いと冷房の風が一緒にぶわっと来て、あ、今日も人間としてぎりぎり生きて帰ってきたなあと思いました。手には半額になったサラダチキン、もう片方にはカフェラテ。レジ横のホットスナックを見ないふりしているのに、目だけは完全に唐揚げを追っていて、自分でもちょっと嫌になります。

    そのとき、スマホに婚活アプリの通知がひとつ。

    「ITフリーランスです。今はエンド直の案件を探してます」

    ……エンド直。

    夜のコンビニ前で見るには、少しだけ強そうな言葉でした。

    「自由に働いてます」って言葉、なぜか少しだけまぶしい

    「フリーランスです」と言われたとき、正直、私はまだ少し身構えてしまいます。

    すごいなあ、自由そうだなあ、カフェでパソコン開いて、好きな時間に仕事して、平日の昼間にふらっと映画とか観られるのかなあ、なんて思う反面、いやいや待って、自由ってそんなにふわふわしたものじゃないでしょ、と心の中のもう一人の私がすぐに腕組みしてきます。

    このもう一人の私、だいたい性格が悪いです。

    婚活アプリで出会う人のプロフィールにも、最近は「会社員」だけじゃなくて「個人事業主」「フリーランス」「ITエンジニア」みたいな言葉が並んでいて、スクロールしながら、みんな自分の人生のハンドルをちゃんと握っているんだなあと思う夜があります。

    私はというと、職場では「サクラックさんってしっかりしてますよね」と言われるタイプで、家に帰ると靴下を脱いだ場所を翌朝まで忘れるタイプです。

    この差、誰かに見られたらちょっと終わります。

    飲食と美容の仕事をしてきて、人の表情がふっとゆるむ瞬間を見るのは好きでした。お客様が鏡を見て「今日ちょっといい感じかも」と笑ったり、疲れた顔で来た人が帰るころには少しだけ声が明るくなっていたり、そういう小さな変化に何度も救われてきました。

    でもそのぶん、自分のことは後回しになりやすくて。

    休憩室で急いで食べたおにぎりの海苔が歯についていないか気にしながら接客した日とか、閉店後に足がむくみすぎてパンプスの中で足が怒っていた日とか、そういう夜に「自由に働いてます」という言葉を見ると、まぶしいというより、少しだけ目がしぱしぱします。

    アメブロを読んでいると、フリーランスの人が「自由になったけど不安もある」とか「働き方を変えたら生活の見え方が変わった」と書いている記事に出会うことがあります。フリーランスの不安や働き方の変化を語る投稿も見られました。

    キラキラしているだけじゃなくて、予定が埋まらない怖さとか、収入が読めないざわざわとか、誰にも頼まれていないのに朝からずっと自分を急かしてしまう感じとか。

    ああ、そっちのほうが本当っぽいなあと思いながら、私はカフェラテを吸いました。

    高額案件って聞くと、なぜか急に財布の中身を確認したくなる

    その人のプロフィールには、「今の案件が終わるので、次はもう少し条件のいいところを探しています」とありました。

    条件のいいところ。

    この言葉、働いている人ならたぶん一回は胸の奥で唱えたことがあると思います。

    もっと給料がよかったら。
    もっと休みが取りやすかったら。
    もっと人間関係が穏やかだったら。
    もっと自分のスキルがちゃんと見てもらえたら。

    言わないだけで、みんな心の中に小さな求人票を持っているのかもしれません。

    私も昔、美容の仕事で忙しかった時期に、帰りの電車で求人サイトを眺めていたことがあります。転職する気が本当にあったのかと聞かれたら、たぶん半分くらいです。残り半分は、「今の私が他の場所でも必要とされるのか」をこっそり確認したかっただけかもしれません。

    これ、ちょっと恥ずかしいけど。

    求人票を見るだけで、なんとなく逃げ道がある気がして、明日も出勤できる日ってありませんか。

    ITフリーランスの人にとって、案件探しってたぶん、私たちが求人票を見るよりもっと生活に近いものなのだと思います。

    エンジニアファクトリーのページを見ていたら、「高額」「エンド直」「フルリモート」「長期稼働」みたいな言葉が並んでいて、正直、最初は私には少し遠い世界に見えました。

    でも、エンド直というのは、お客様に近いところで仕事ができる案件のことらしく、間にたくさんの層が入るよりも、自分の仕事の価値が見えやすい場面もあるのかな、とぼんやり思いました。

    もちろん、近いからこその難しさもあるはずです。

    期待も近い。
    責任も近い。
    相手の温度も、たぶん近い。

    接客の現場でも、お客様との距離が近いほど嬉しい言葉も直接届くけれど、しんどい言葉も逃げ場なく届くことがありました。

    婚活アプリのメッセージで、単価の話をされても困る夜

    その人とは、何通かメッセージをしました。

    「お仕事、忙しいですか?」
    「今は案件の切れ目で少し落ち着いてます」
    「そうなんですね、少し休めますね」
    「でも次を探さないと不安で」

    ここで私は、なんて返せばいいかわからなくなりました。

    「わかります」と送るには、私はITフリーランスじゃない。
    「大変ですね」と送るには、少し他人事すぎる。
    「頑張ってください」は、なんだか駅前で配っているティッシュくらい薄い。

    スマホの画面を見ながら、親指だけが行き場をなくして止まっていました。

    こういうとき、会話って急に狭い廊下みたいになります。

    向こうはたぶん、仕事の話をしているだけ。
    私はそこに、生活の不安とか将来の想像とか、結婚したらどうなるんだろうとか、ひとりで勝手にいろいろ乗せてしまう。

    まだ会ってもいないのに。

    自分で自分にツッコミました。

    重い、早い、怖い。

    でも、婚活していると、ただの職業欄がただの職業欄に見えない夜があります。

    会社員なら安定しているのかな。
    フリーランスなら収入が読みにくいのかな。
    でも会社員だって絶対じゃないし、フリーランスでもちゃんと稼いでいる人はいるし、そもそも私の家計簿だって毎月きれいに整っているわけじゃないし。

    冷蔵庫には、賞味期限が昨日の豆腐がいました。

    人の働き方を心配する前に、豆腐をどうにかしたほうがいいです。

    仕事の条件を上げたい気持ちは、欲深さじゃないのかもしれない

    高額案件という言葉を見たとき、少しだけ身構える自分がいました。

    お金の話って、なんとなく声を小さくしたくなります。

    「もっと収入が欲しい」と言うと、欲張りみたいに聞こえる気がして。
    「今より条件のいいところに行きたい」と言うと、今の場所に不満ばかりある人みたいに見える気がして。
    「単価を上げたい」と言うと、急にビジネス感が出て、自分の中の生活感が置いていかれる気がして。

    でも、よく考えると、私だって美容液を買うときに口コミを調べるし、同じ値段なら容量が多いほうを選ぶし、家賃を払ったあとに通帳を見て、今月の外食は少し減らそうかなと考えます。

    生活を守りたいって、そんなにいやらしいことじゃないはずなのに、なぜか言い方を間違えると自分が冷たい人間になったような気がするのが不思議です。

    案件単価を上げたい人も、ただ派手に稼ぎたいだけじゃなくて、未来の不安を少し減らしたいのかもしれません。

    親に何かあったときに動ける余白。
    体調を崩したときに休める余白。
    好きな人とごはんに行くとき、メニューの右側ばかり見なくていい余白。

    余白って、けっこうお金とつながっています。

    言いたくないけど、つながっています。

    でも本当は、彼の案件より私の部屋のWi-Fiが先に落ちた

    ここまで、私はその人の働き方について、ずいぶん真面目に考えていました。

    考えていた、はずでした。

    けれど、その夜いちばん焦ったのは、彼の次の案件でも、将来の安定でもなく、私の部屋のWi-Fiが突然切れたことでした。

    婚活アプリの返信を書いている途中で、画面がぐるぐるしたまま止まり、私はなぜかルーターに向かって小声で「ねえ、今じゃない」と言いました。

    ひとり暮らしが長くなると、家電に話しかける頻度が上がります。

    ルーターの小さなランプを見つめながら、私は急におかしくなってしまいました。

    ITフリーランス向けの高額案件について考えている私が、自分の部屋のネット回線ひとつにこんなに振り回されている。

    エンド直どころか、ルーター直です。

    しかも弱い。

    しばらくしてWi-Fiは戻り、止まっていたメッセージが送信されました。

    「不安になりますよね。次の場所を探す時間って、休んでいるようで休めなさそうです」

    送ったあとで、少しだけ後悔しました。

    重かったかな。
    知ったようなことを言ったかな。
    いやでも、軽すぎるよりはいいのかな。

    そんなことを考えていたら、向こうから返事が来ました。

    「そうなんです。でも、ちゃんと選べるようになりたいんですよね」

    ちゃんと選べるようになりたい。

    その一文だけ、なぜか画面の中で静かに残りました。

    高額案件を探すことも、エンド直に挑戦することも、フリーランスとしてサービスに登録して相談することも、もしかしたら全部、「ちゃんと選べるようになりたい」の形のひとつなのかもしれません。

    仕事を選ぶ。
    働き方を選ぶ。
    休み方を選ぶ。
    誰と会うかを選ぶ。
    今日、唐揚げを買うか買わないかを選ぶ。

    私は唐揚げを買いました。

    そこは選びました。

    後悔は、少しだけしました。

    けれど、帰り道の袋の中からほのかに漂う匂いが、なんだか妙にやさしくて、まあ今日はこれでいいかと思ってしまいました。

    フリーランスの働き方も、婚活も、部屋のWi-Fiも、きっと外から見えるほど整ってはいません。

    それでも、誰かが自分の次の場所を探している夜に、私も私で、明日の自分が少し息をしやすい場所を探しているのかもしれません。

    たぶん、みんなそうやって、検索窓に言えない本音を入れているのかもしれません。

    エンジニアファクトリーのページを閉じたあとも、「案件」という言葉だけが少し生活の中に残っていました。

    案件って、仕事のことだけじゃないのかも。

    私にとっては、今日の疲れをどう扱うかも、誰かの不安にどこまで近づくかも、唐揚げを買った自分を責めすぎないことも、全部、名前のない小さな案件みたいでした。

    まだ、受注できるかはわからないけれど。

    夜の部屋で、ルーターのランプだけがちゃんと光っていました。

    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!
    • URLをコピーしました!
    目次