夜の洗面所で、PCMAXの文字を見つめていた

夜の11時すぎ、洗面所の鏡の前で前髪をピンで留めたまま、私はスマホの画面をじっと見ていました。クレンジングをなじませた指先が少しぬるっとしていて、洗面台には落としきれていないラメが一粒だけ光っていて、「今日もちゃんと大人の女性をやり切ったな」と思った瞬間に、なぜか検索欄にPCMAXと打っていました。
自分でも笑いました。いや、何してるの、私。
婚活アプリを開くほど元気ではないけれど、誰かと少し話したい夜って、あるんですよね。好きな人がほしい、というより、今日の私が誰にも見つからずに終わるのが、少しだけさみしい夜。
「出会いたい」より「誰かと話したい」が先にくる夜がある
仕事から帰ってきて、バッグを床に置いて、ストッキングを脱いで、冷蔵庫の麦茶をコップに注いだだけで一日が終わったような気持ちになる日があります。
ちゃんと働いたし、ちゃんと笑ったし、ちゃんと「ありがとうございます」も言えたのに、部屋に戻った瞬間、誰にも見せていない顔がどっと出てくる感じ。
こういう夜に、恋愛って言葉を真正面から見ると少しまぶしいんです。
結婚、将来、価値観、年収、休日の過ごし方、子どもはほしいかどうか。婚活のプロフィール欄って、冷静に見ると小さな履歴書みたいで、読むだけで肩がこる時があります。
もちろん知りたい。むしろ知らないと困る。
でも、夜の11時の私は、そこまで立派な会話をする体力がないんですよね。
「今日、何食べた?」
「寒くなったね」
「そのアイコン、猫?」
それくらいの言葉から始まるほうが、少しだけ息がしやすい日もあります。
note販売の全てが分かる完全ガイド:タイトル50例・7つの構成テンプレート・30日実践シート付プロフィール文に、いい女っぽさを盛りたくなる自分がいる
登録するかしないかを迷いながら、私は自分のプロフィール文を頭の中で勝手に作っていました。
「カフェ巡りが好きです」
「美容とファッションが好きです」
「お休みの日はゆっくり過ごすことが多いです」
書いていて、心の中の私が小さくツッコミました。
いや、カフェ巡りって最後にしたのいつ。
お休みの日、だいたい洗濯機を2回まわして、YouTubeを流しながら床に座って、気づいたら夕方になってるじゃん。
美容好きって書きたいけど、昨日の夜パックしたまま寝落ちして、朝ほっぺたにシートの跡ついてたじゃん。
こういう小さな恥って、誰にも言わなければ済むのに、ひとりの部屋だと妙に大きな音で響きます。
プロフィールには、少し整った私を書きたい。
でも、整っていない私をずっと隠したまま誰かと話すのも、ちょっと疲れそう。
婚活中なのに、軽い会話に逃げたくなる日は普通にある
婚活中と書くと、いつも前向きで、いつも結婚に向かって努力していて、休みの日は素敵なワンピースを着てデートに行っている人みたいに見えるかもしれません。
でも実際は、毛玉のついた部屋着で、コンビニのサラダチキンをかじりながら、誰かの返信を待っているだけの日もあります。
待っていると言っても、待っていないふりをしながら待っています。
通知が鳴るたびにスマホを裏返して、「別に気にしてませんけど?」みたいな顔をして、結局3秒後には見ています。
あれ、誰に向けた強がりなんでしょうね。自分でもよくわかりません。
「ちゃんとした出会いじゃないとダメ」
「婚活中なら効率よく動かなきゃ」
「こんな時間に何やってるんだろう」
この三人が、私の頭の中でよく会議を始めます。
しかも全員、声が大きい。
もう少し小声でお願いしたいです、本当に。
便利な場所ほど、自分の弱さも一緒に出てくる
PCMAXについて調べていると、気軽さや会員数の多さが目に入りました。人が多い場所は、出会いの可能性もあるけれど、同時に見極める目も必要になるんだろうなと感じます。
年齢確認のあるサービスでも、相手の言葉を全部そのまま信じていいわけではないし、外部サイトに誘導されたり、すぐに会いたがったり、お金の話が出たりしたら距離を置くほうがよさそうです。
こう書くと急に説明っぽくなってしまうけれど、夜中に寂しさで判断力が薄くなっている時の自分って、案外あぶなっかしいんですよね。
「私だけは大丈夫」と言えるほど、私は自分を信用していません。
そこがまた、ちょっと情けなくて、人間っぽいところでもあります。
スマホの画面を閉じたあと、洗面所に戻ると、さっき落としきれなかったラメがまだありました。
指でこすってもなかなか取れなくて、なんだか今日の気持ちみたいだなと思いました。
誰かに会いたい。
でも、傷つきたくない。
ちゃんと恋愛したい。
でも、軽い会話で救われたい夜もある。
この全部を抱えたまま、私は水を流して、タオルで手を拭きました。
PCMAXを使うかどうかは、まだ決めていません。
ただ、検索欄にその名前を打った自分を、そんなに責めなくてもいいのかなとは思いました。
恋を探しているのか、寂しさの置き場所を探しているのか。
その境目がぼやける夜は、たぶん私だけじゃない気がします。





