マッチングアプリで出会った“説明がうま過ぎる人”に、なぜか心が冷えた夜の話

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    いい人だったはずなのに、帰りの電車で一気に無理になった理由を言葉にしてみる

    スマホ片手の女性

    冷えた空気が、コンビニの自動ドアからふわっと流れ込んできた。夜の九時すぎ。レジ横の肉まんの湯気だけが、やけに元気で、私の吐く息は白いのに気持ちはどこにも行き場がないまま、スマホの画面だけを見ていた。

    マッチングアプリの通知って、なぜあんなに軽い音がするんだろう。
    「いいねが届きました」って、私の生活のどこに届くんだろう。
    買う予定だったのはキッチンペーパーと豆乳だけなのに、気づけば片手でスマホを握って、もう片手でレジかごを支えながら、私は見知らぬ誰かのプロフィールを眺めている。

    その人は、写真がとても普通だった。変な加工もないし、筋肉アピールもないし、キラキラした高級店も写っていない。文章も短くて、「休日はカフェ巡り、映画も好きです」みたいな、可もなく不可もなく。だから、少し安心した。安心した時点で、もうこちらが負けている気もするのに。

    メッセージは丁寧だった。丁寧すぎるくらい。
    「はじめまして。文章から落ち着いた方なのかなと思いました」
    「お仕事忙しいですよね、無理のないペースで大丈夫です」
    この“無理しないでね”の一言が、妙に胸に刺さった。私は、たぶんずっと、誰かに「無理しないで」って言われたかった。恋愛というより、生活に。

    それで、会うことになった。
    駅の改札前。人が多くて、冬の匂いがして、手袋の中で指先がじんじんする場所。私は一時間前から、鏡で分け目をチェックしたり、リップを塗り直したり、意味のないことをしていた。こういう時の私の準備って、だいたい“がんばってる感”を隠すための努力だ。

    彼は、遅れずに来た。
    背が高いとか、顔がいいとか、そういうわかりやすいポイントはなくて、でも清潔感はあった。声も普通。笑い方も普通。だからこそ、私は「今日は普通に終わるかもしれない」と思ってしまった。

    カフェに入って、注文をして、席についた。
    その時点までは、ちゃんと“恋愛の入口”にいる感じがした。仕事の話、休日の過ごし方、最近見た映画。私が「最近、家にいる時間が増えました」と言ったら、彼は少しだけ目を細めて、「それ、いいですね」と言った。
    “いいですね”って、なぜか救われる。自分の地味な生活を肯定された気がして。

    でも、違和感は小さく、目立たない形で始まった。

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    その人の「変」は、悪意より“温度”のズレだった

    スマホ片手の女性

    たとえば、質問がやけに整っていた。
    「理想の将来像はありますか」
    「人生で大事にしている価値観は何ですか」
    「今後のキャリアの方向性は」
    まるで面接みたいで、私は笑いながら答えた。笑いながら答えたけど、心の中では、なんとなく息が浅くなっていくのがわかった。

    恋愛の会話って、もっと雑でいいはずなのに。
    好きな食べ物の話をして、どうでもいい失敗談をして、少し沈黙があって、それでも空気が悪くならない、みたいな。私はそういう“雑さ”を求めていたんだと思う。

    彼はとにかく、私の言葉を“まとめよう”とした。
    私が「最近ちょっと疲れやすくて」と言えば、「生活改善が必要かもしれませんね」と返ってくる。
    「婚活って、たまにしんどいですよね」と言えば、「目的を明確にしましょう」と返ってくる。

    そのたびに、私は自分の感情が小さく折りたたまれていくのを感じた。
    疲れた、って言っただけなのに。
    しんどい、って言っただけなのに。
    どうして私は、今ここで“改善”しなきゃいけないんだろう。

    彼は悪い人じゃない。たぶん、本当に。
    でも、私が欲しかったのは、答えじゃなくて、「わかる」の一言だった。

    さらに、彼はやけに“早い”人だった。
    話が早い。決断が早い。距離の詰め方が早い。

    「このあと、もう一軒行きません?」
    「次はいつ空いてます?」
    「アプリだと見逃すことがあるので、LINEにしませんか」

    LINE交換自体は珍しくない。むしろ自然な流れのことも多い。
    だけど彼の言い方には、こちらが断る隙間がなかった。“当然そうするよね”みたいな雰囲気が、じわっと怖かった。

    私が「今日はこのあと予定があって」と嘘をついたら、彼はすぐに「じゃあ次はいつがいいですか」と畳みかけた。
    この人、私の“帰りたい”を、ただのスケジュール調整だと思ってる。
    そう気づいた瞬間、私の中で何かが冷えた。

    そして、決定打は、帰り道のメッセージだった。

    「今日はありがとうございます。ところで、将来のために資産形成って興味ありますか?」

    え、今?
    今その話?
    カフェで映画の話をして、駅まで歩いて、別れて、帰りの電車で届いたメッセージがそれ?

    その瞬間、胸の奥が、すごく静かにざわついた。怒りでもなく、悲しみでもなく、“体温が合わない”感じ。
    私はスマホを見ながら、電車の揺れに合わせて、自分の気持ちがどこかに流れていくのを見ていた。

    マッチングアプリで知り合ってすぐ外部のチャットに誘導したり、投資の話を持ち出したりするトラブルは実際に相談事例としても紹介されているらしい。国民生活センターも、恋愛感情につけ込むような「ロマンス投資詐欺」の典型として、外部ツールへの誘導→投資話→追加請求…みたいな流れに注意を促している。
    こういう“事実”を知ると、私の違和感が正しく見える気もする。でも同時に、すべてを「危険」「詐欺」って言い切ってしまうのも、なんだか違う気がした。

    彼は、ただ“資産形成が好きな人”だったのかもしれない。
    誰かと未来の話がしたかっただけなのかもしれない。
    でも私は、その話題を「今ここで」出されることが、どうしても耐えられなかった。

    そしてもっと嫌だったのは、私が一瞬だけ、揺れたことだ。

    “資産形成”って、響きはちゃんとしている。
    将来の不安、老後、物価、貯金、ひとり暮らし。
    そういうワードに、私は弱い。弱い自覚がある。
    だからこそ、そのメッセージを見た瞬間に「話だけ聞く?」って思いそうになった自分が、すごく見苦しく感じた。

    自分の弱さに、相手が触れてきたとき。
    それが悪意かどうかより先に、私は自分自身が恥ずかしくなる。
    “私はこういうのに引っかかるタイプなのかも”って、未来の自分に失望しそうになる。

    それでも、私がいちばん引っかかったのは「私の方」だった

    家に帰って、コートを脱いで、暖房をつけて、メイクを落として。
    洗面台の鏡の前で、私は自分の顔を見た。
    目の下が少しだけ疲れていて、頬が乾いていて、口角が中途半端に下がっていた。

    「変な人だったな」
    そう言ってしまえば簡単なのに、私はそれだけでは済まなかった。

    変だった。確かに。
    でも私は、“変”に出会うたびに、どこかで自分の価値も一緒に下がる気がしてしまう。
    マッチングアプリで変な人に当たるたびに、「ほらね、私ってそういう扱いなんだよ」って、誰にも言われてないのに、勝手に傷つく。

    たぶん私は、恋愛がうまくいかない時、相手より先に自分を責める癖がある。
    「私が変な人を引き寄せた」
    「私の見る目がない」
    「私が普通じゃないから」
    そんなふうに、全部自分に返してしまう。

    でもね、今日の違和感は、私がちゃんと感じ取ったものだとも思う。
    “合わない温度”を、私は見逃さなかった。
    それは、成長なのか、臆病になっただけなのか、まだわからないけど。

    マッチングアプリにはいろんな人がいる。
    善意の人もいるし、ズレた人もいるし、悪意の人もいる。既婚を隠したり年齢を詐称したりするケースがあることも、公的な資料の中で触れられていたりする。
    だからこそ、こちらの“感覚”が頼りになる場面も多いのだと思う。

    だけどその感覚は、いつも正しいわけじゃない。
    私の不安が、ただの猜疑心に変わる瞬間もある。
    誰かの優しさを、裏があると決めつけたくなる夜もある。
    恋愛をしたいのに、警戒ばかり上手くなっていくのは、ちょっと寂しい。

    彼のメッセージは、結局スルーした。
    返事をしないまま、通知だけが溜まっていった。
    ブロックするほどでもない、でも返す気にもならない。
    この“中途半端”が、いちばん疲れる。

    たぶん私は、今日の出来事を「笑い話」にするには、まだ少しだけ痛い。
    でも「被害者」になるほどでもない。
    だから誰にも言わないまま、豆乳を冷蔵庫に入れて、キッチンペーパーを棚にしまって、いつも通りに歯を磨く。

    そして布団に入って、スマホを開いて、またアプリを見てしまう。
    懲りてない。
    でも、諦めてもいない。

    今日の“ヘンな人”が教えてくれたのは、恋愛の正解じゃなくて、私の揺れだった。
    「怖い」と「期待」が、同じ場所に住んでいること。
    「普通の人がいい」と言いながら、普通って何かもうわからなくなっていること。
    そして、私がいちばん守りたいのは、恋愛の成果じゃなくて、私の生活の温度なんだってこと。

    明日になったら、今日の違和感は薄まるかもしれない。
    でも薄まったあとに残るものが、案外、私の輪郭をつくるのかもしれない。

    ……次にマッチした人が、すごくいい人だったら。
    私は今日のことを、なかったことみたいに笑うのかな。
    それとも、笑えないまま、大事に抱えていくのかな。

    答えはまだ出ない。
    出さなくていい気もする。

    最後に、肉まんの湯気みたいに、消える前の温かさだけ覚えておこうと思う。

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